喘息
50歳、男性です。突然気管支喘息と診断されました。小さい頃喘息もなく、アレルギーもありませんが、大人になって気管支喘息が突然発症するものなのでしょうか。
気管支喘息は子供の病気で、大人になってからは発症しない、気管支喘息はアレルギーの病気であると思われている方も多いと思います。
小児喘息の場合、確かにダニやハウスダストなどのアレルギーの関与は多いのですが、大人の喘息の場合、アレルギーの関与は少なく、突然発症します。体質などいろいろな複合要因があり、誰もが発症しうる病気なのです。
喘息になった場合、普段無症状でも、かぜ、季節の変わり目、気圧の変化、ストレス、大気汚染、たばこ、鎮痛剤などの薬などで喘息が突然悪化します。
小児喘息は大人になると症状が出なくなる人が多いのですが(残念ながら完治はしません)、成人発症の喘息は薬が効きにくい難冶例が多く、注意が必要です。
病院でアスピリン喘息と言われました。どのような病気なのでしょうか。注意する点は。
アスピリンをはじめとする解熱鎮痛剤(ロキソニンやボルタレンなど)によって誘発される喘息のことです。小児期における発症は稀で、成人喘息患者の約10%にみられ、多くが慢性副鼻腔炎や鼻茸を合併しています。
通常の検査では診断できず、解熱鎮痛剤を使用後数時間以内に喘息が出現したというエピソードを確認することが重要になります。従って、すべての成人喘息患者さんは解熱鎮痛剤を使用する場合、注意が必要です。飲み薬だけではなく、座薬、注射、湿布や塗り薬でも起こりえます。
ただ、すべての解熱鎮痛剤が使用できないわけではなく、カロナール(アセトアミノフェン)やソランタールなどは大丈夫ですので、病院で痛み止めをもらう時には、アスピリン喘息であることを必ず申し出てください。
気管支喘息では、なぜゼーゼー、ヒューヒューという音(喘鳴)が聞こえるのですか。
気管支喘息は慢性的な炎症によって気管支が狭くなる病気で、かつ気管支の狭窄は恒常的ではなく、可逆性がみられます。
ところで炎症とは何でしょうか?炎症の身近な例として、やけどや虫刺されなどがあります。やけどや虫に刺されると、皮膚が赤く腫れ、ひどい場合、滲出物が出てきます。
この炎症が気管支に起こると気管支が腫れ、さらに分泌物(痰)も出てきて、気管支が狭くなります。
ゼーゼー、ヒューヒューという音(喘鳴、ぜんめい)は、呼吸するとき、狭くなった気道を空気が通るときに聞こえる摩擦音なのです。
気管支喘息では、気管支の炎症と、それに伴う気管支狭窄が、夜から朝方に強くみられることより、この時間帯に息苦しさ、咳、痰などの症状が悪化します。
このゼーゼー、ヒューヒュー音(喘鳴)は気管支喘息の診断根拠の一つですが、他の病気でも見られますので、喘鳴イコール気管支喘息ではありません。
(小冊子 ぜんそくのない生活へ グラクソ・スミスクライン株式会社より引用)
ゼーゼー、ヒューヒューという音(喘鳴)があり、気管支喘息と診断されました。しかし、気管支喘息の治療をしても改善しません。本当に気管支喘息なのでしょうか。
気管支喘息の診断は簡単のようで、難しい例も多々あります。 ゼーゼー、ヒューヒューという音(喘鳴)は気管支喘息以外の病気でも聞こえます。この音(喘鳴)は狭くなった気道を空気が無理やり行き来するときに生じる狭窄音なのです。
気道とは、呼吸するときの空気の通り道のことですので、口から喉頭、気管、気管支までを含みます。この気道のどこかの部分が狭くなると、この音が聞こえてきます。
具体的には、喉頭炎、声帯機能不全症、気管腫瘍、気道異物、心不全、肺血栓塞栓症、肺がんなどの病気で喘鳴がみられることがあります。
心不全の場合、心臓の働きが悪くなり、全身に水が溜まり、全身が腫れてくるのですが、特に気管支が腫れると喘鳴が聞こえ、気管支喘息との区別が難しい場合があります。心不全の喘鳴を特に心臓喘息と言います。
適切な気管支喘息の治療をしても効果ないときは、他の病気を考える必要があります。
喘息で治療中ですが、たびたび発作的にのどの締め付け感を伴う呼吸困難が出現します。声帯機能不全症を合併しているといわれました。どんな病気でしょうか。
声帯機能不全症とは
診断・臨床症状
声帯機能不全症(VCD vocal cord dysfunction)は、「発作時に声帯が吸気時に内転して気道が狭くなる」病態で、気管支喘息と似た呼吸困難・喘鳴をきたす。主な症状は発作的な呼吸困難、吸気性喘鳴(頸部を中心に聞こえる甲高いヒューヒュー音)、喉の締めつけ感、嗄声、咳嗽などである。これらは多くの場合日中や運動時に起こり、ストレスや不安と関連することが多い。身体所見では頸部(声門近傍)で喘鳴が強く聴取されるのが特徴で、胸部聴診では比較的異常音が乏しく、動脈血酸素飽和度(SpO₂)は正常域に保たれる。
診断では問診と検査が重要である。問診で誘発因子(運動、酸性ガス吸入、後鼻漏、胃食道逆流など)や精神的背景(不安・パニック傾向、心的外傷歴など)を確認する。呼吸機能検査では、通常は安静時は正常だが、発作時のフローボリューム曲線で吸気相の平坦化(上気道閉塞パターン)を示すことがある。最も確実な診断法は、発作中に喉頭ファイバー(喉頭鏡)で声帯を観察することで、吸気時に両側声帯が内転閉塞する所見を確認できればVCDと確定する。
喘息との鑑別ポイント: VCDでは吸気性喘鳴が主体で胸部より頸部の喘鳴が目立ち、SpO₂が正常範囲である点が喘息と異なる。また、喘息発作では呼気性の喘鳴(胸部から聞こえるゼーゼー音)が主体となるのに対し、VCDでは吸気で声門が狭まるため吸気性のヒューヒュー音が強い。VCD患者は気管支拡張薬や吸入ステロイドに反応せず、治療抵抗性喘息として扱われる例も多い。診断にはこれらの特徴に加え、「喘鳴は胸部より首で強い」「SpO₂は正常」「夜間より昼間に多い」「スパイロ正常または上気道パターン」などが指摘されている。
- 主な症状:発作性呼吸困難、吸気性喘鳴(声門部優位)、喉の締めつけ感、嗄声、咳嗽など。
- 問診:運動誘発、ストレス・不安誘発、逆流性食道炎や後鼻漏の有無、喘息既往などを確認。
- 身体所見:頸部聴診で吸気性喘鳴が優位、胸部は比較的無音/軽微、SpO₂正常。
- 検査:呼吸機能検査で吸気時流量が平坦化(上気道閉塞像)、喉頭ファイバーで発作中の声帯内転を直接観察。
治療法
VCDの治療は教育・呼吸訓練・心理サポートが主体である。患者には疾患の性質(声帯閉塞によるものであること)を丁寧に説明し安心させ、リラクゼーションや腹式呼吸などの呼吸訓練を指導する。特に「口すぼめ吸気法(pursed‐lip inspiration)」などで吸気速度を落とす訓練は、声門上方の陰圧を減らして声帯内転を抑制する効果が報告されており、発作時の呼吸困難軽減に有効である。
また、心因性の背景が強い場合は抗不安薬や精神療法、カウンセリングを併用し、不安反応を抑える。音声(言語)療法士による専門的な訓練も推奨される。基礎疾患や誘因の治療も重要で、併存する胃食道逆流や後鼻漏、副鼻腔炎などがあればそれらを治療する。喘息を合併している場合は適切な吸入療法を継続する一方で、VCDそのものには気管支拡張薬は効果がない。
急性期対応: 発作時にはまず安静・安心させ、酸素投与も考慮しつつ不必要なステロイド大量投与は避ける。呼吸困難が強ければ深呼吸で緊張を緩めたり、上述の口すぼめ呼吸を行わせる。多くは非薬物的対応で改善するが、まれに気道確保(気管挿管・気管切開)が検討される重症例も報告されている。
長期管理: 定期的な呼吸訓練と心理サポートを継続し、発作誘発因子(激しい運動、刺激臭、喫煙など)の回避を指導する。再発予防には生活指導やストレスマネージメントが有効であり、自己治療法(発作時の呼吸法)を習慣化することが勧められている。
疫学とリスク因子
VCDの正確な罹患率は不明だが、喘息診断患者の中に潜在する例が少なくないとされる。日本人データでは、気管支喘息と診断された患者の約3~5%にVCDが認められ、呼吸困難でICU入室する患者では2~20%、治療抵抗性喘息患者では約30%にVCDの合併が報告されている。また、米国NIHガイドラインでもVCDは喘息類似疾患として挙げられており、VCD患者の約6割は最初難治性喘息として治療を受けていたとの報告もある。
好発年齢は20~40歳代の比較的若年成人で、女性に多い(男女比約1:3)。リスク因子としては、パニック障害や不安神経症などの精神疾患を背景に持つ例が多く(VCD患者の70%以上に精神症状ありとする報告もある)、心的外傷後ストレスや過換気症候群を伴う場合もある。そのほか、激しい運動中(運動誘発型VCD)や酸性ガス・化学物質吸入、術後の気管挿管抜管、喉頭刺激(後鼻漏など)によって発作が誘発されることがある。
以上の通り、VCDは喘息と症状が類似し誤診されやすいが、典型的には吸気性の声門部狭窄所見を呈し、検査では呼吸機能は正常域(または上気道閉塞パターン)、発作時に声帯内転が観察される点で鑑別される。治療は主に呼吸訓練・音声療法・心身治療が中心であるため、喘息治療に反応しない喘鳴患者ではVCDを念頭に置く必要がある。
ましもと内科呼吸器科での成人の喘息治療について教えてください。
現時点では喘息の完治は困難で、喘息は薬でコントロールすべきものと考えられています。当院では飲み薬よりも副作用が少なく、効果のある吸入中心の治療を行っています。
ファーストステップとして、吸入ステロイド薬と、長時間作働性吸入β2刺激薬の合剤であるレルベアやアドエア、シムビコート、フルティフォームなどでまず治療を開始します。吸入ステロイド薬(フルタイド、パルミコート、アズマネックス、キュバール)と、長時間作働性吸入β2刺激薬(セレベント)を併用することもあり、その後改善していけば減量していきます。
効果不十分であれば、テオフィリン徐放製剤(テオフィリン)やロイコトリエン受容体拮抗薬(モンテルカスト)の内服を加えていきます。さらに、難治例には吸入ステロイド薬/長時間作働性吸入β2刺激薬の合剤(レルベア、アドエア、シムビコート、フルティフォーム)に、長時間作用型抗コリン薬(スピリーバレスピマット)を加えます。最近、吸入ステロイド薬、長時間作働性吸入β2刺激薬、長時間作用型抗コリン薬の3剤合剤(テリルジー)が発売され、使い勝手がよくなりました。
また、電動式ネブライザーを貸与し、インタール(クロモグリク酸Na)吸入液+短時間作動性吸入β2刺激薬(ベネトリン、メプチン)の定期吸入を勧める場合もあります。
風邪などをきっかけに喘息が急に悪化することがあります。その時には発作止めである短時間作働性吸入β2刺激薬(メプチンエアー、メプチンスイングヘラー、サルタノール)を早めに、適切に使用してもらいます。それでも改善しないときにはプレドニゾロン(経口ステロイド)の短期間内服を勧めています。
高用量の吸入ステロイドなどを使用しても、しばしば喘息発作が出現し、内服や点滴によるステロイドを頻回に使用せざるを得ない難治性喘息の方には、生物学製剤の注射も考慮しています。
吸入薬の役割
(小冊子 ぜんそくのない生活へ グラクソ・スミスクライン株式会社より引用)
喘息治療の主体は、なぜ飲み薬ではなく、吸入薬なのですか。
喘息は肺の中の気管支の病気です。飲み薬や注射薬とは異なり、吸入することにより直接気管支に薬が届くため、ごく少ない量で効果が出ます。また。全身に吸収される量が少ないため、副作用も少ないのです。
ただ、吸入ステロイド薬が口腔内に付着すると口腔内にカビが生えますので、吸入後にうがいをして洗い流すことが大切です。
(小冊子 ぜんそくのない生活へ グラクソ・スミスクライン株式会社より引用)