検診で見つかった肺の異常影
検診の胸部レントゲン写真で異常を指摘されました。どうしたらよいのでしょうか。
検診の結果「異常あり」と通知を受けて、驚かれる方も多いと思います。
ただし、検診で「異常」とされた方のうち、精密検査で本当に異常が見つかる方はごく一部です。
検診の目的は病気を早期に発見することです。そのため、少しでも疑わしい陰影があれば「異常」と判定されます。実際には異常がないのに指摘される影として、以下のようなものがあります。
・肺の中を走る血管や気管支の影
・肋骨など胸郭の影
・乳頭の影
・治療の必要がない古い肺や胸膜の傷痕
もちろん、中には肺がんや結核など重大な病気が隠れている場合もあります。
それを区別するには、精密検査が必要です。当院ではヘリカルCT検査(検査時間は数分)を受けていただくことができます。
検診で異常を指摘された方は、不安な時間を過ごすよりも、どうぞ早めにご受診ください。

検診の胸部X線で、右肺の真ん中に1cm大の白い結節(○枠)が指摘されました。

しかし、胸部CTでは肺に異常はなく、骨島と呼ばれる肋骨の硬化像で(○枠)、全く問題ないものでした。
胸部X線検診でどの程度の人がひっかかるのですか。
胸部X線検診で「異常影をひっかける基準」は、高すぎても低すぎても問題が出てきます。
胸部X線による肺がん検診の「要精密検査率」は 2~3%程度が適正ゾーンと考えられています。
① 基準が低すぎる場合(ちょっとでも怪しいとすぐ要精査)
・小さな影や、正常でもよく見られる濃淡の差まで「異常の可能性あり」と判断される
・要精査・要再検査の人が増え、CT・精密検査が増える
・医療費や被ばくが増える
・本人や家族の不安が大きくなる
・結果として「結局何もなかった」という“偽陽性”が多くなる
② 基準が高すぎる場合(かなりはっきりした影でないと要精査にしない)
・小さな肺がんや、初期の肺炎・結核などを見逃すリスクが高くなる
・一見軽い影でも、経過を追うと病気だったという“偽陰性”が増える
・「検診では異常なしと言われたのに、あとから病気が見つかった」という事態につながる
③ 検診の胸部X線に求められるバランス
・検診は「できるだけ見落としを減らす(感度を高くする)」ことが大事です
・その一方で「不要な精査を増やしすぎない(特異度もある程度保つ)」必要があります
・そのために、過去の画像との比較、年齢・喫煙歴・自覚症状などより、総合的な判断が求められています
毎年胸部レントゲン写真による肺癌検診を受けていますが、これで十分でしょうか。
現在の日本の標準的な肺癌検診(X線+喀痰細胞診)は限界があり、リスク群に対しては 低線量CTによる検診が死亡率を下げる有効な方法であることが科学的に証明されています。
1.厚労省による評価
・有効性が認められた検診:胃癌検診、子宮癌検診
・有効性が不十分とされた検診:肺癌検診
現在の肺癌検診は「胸部X線写真+喀痰細胞診」が基本ですが、この方法では早期の「治る肺癌」を見つける力が限界的とされています。
2.肺癌検診の課題
・肺癌の特徴
最近急増している。
他の癌と比べ治りにくい。
発見時に進行していることが多い。
・胸部X線検診の限界
2cm以下の小型肺癌を見つけるのは困難。
心臓、横隔膜、肋骨、鎖骨などと重なり「死角」が生じ、見落としが起こる。
3.ヘリカルCTの利点
・死角がなく、解像度が高い。
・5mm大の肺癌でも発見可能。
・特に推奨される対象:
癌年齢層(中高年)
危険因子を有する人(喫煙者、COPD、間質性肺炎、肺のう胞、塵肺、アスベスト症など)
家族歴のある人
4.米国での大規模試験(NCI, NLST試験)
・対象:55~74歳の重喫煙者
・比較:胸部X線 vs. 低線量CT
・結果:
低線量CTでは
肺癌死亡率:約20%減少
総死亡率:6.7%減少
○枠の中に肺がんがあるのですが、胸部X線でははっきりしません。

胸部CTでは○枠、矢印の部位に2㎝大の結節を認めました。手術の結果、早期肺がんでした。
このように胸部X線では確認できない、助かる肺がんを胸部CTで見つけることができます。

喫煙歴はありません。胸部CT検査で肺には異常はありませんでした。
5年間は肺がんの心配はまずないでしょうと言われました。本当でしょうか。
結論から申し上げますと、その医師の言葉は**「医学的な根拠に基づいた、非常に信頼性の高い予測」**と言えます。
「100%絶対にない」とは断言できませんが(医学に絶対はないため)、非喫煙者でCT画像に異常がなかった場合、向こう5年程度は肺がんが見つかる(あるいは治療が必要な状態になる)確率は極めて低いです。
【図解】なぜ「5年は安心」と言い切れるのか?
医師の言葉の最大の根拠は、**「がん細胞が成長するスピード」と「CT検査の精度の高さ」**にあります。 以下の図をご覧ください。

根拠1:がんの「成長スピード」から計算できる
がんは、ある日突然大きな塊ができるわけではありません。図のように、1個の細胞が分裂して2個、4個、8個……と倍々に増えていきます。
・CTの精度は非常に高い
最新のCTは数ミリ単位の極小の結節でも発見できます。「異常なし」ということは、現時点で**「目に見えるサイズのがんの種すらない」**ということです。
・ゼロからのスタートには時間がかかる
もし仮に、今日がん細胞が1個生まれたとしても、それがCTに写る大きさ(約1cm)に成長するまでには、通常数年から10年近くかかります。 現在「影がない」のであれば、明日からがんが成長し始めたとしても、5年以内に命に関わるような大きさになることは、計算上ほとんど考えにくいのです。
根拠2:非喫煙者の肺がんは「進行がゆっくり」
タバコを吸う人のがんは成長が速いことがありますが、非喫煙者に発生しやすい肺がん(主に腺がん)は、比較的ゆっくり発育するタイプが多いのが特徴です。 特に、淡い影(すりガラス状陰影)で始まるタイプは、数年単位で大きさが変わらないことも珍しくありません。この点も、5年間の安全性を裏付ける大きな要因です。
根拠3:CTには「死角」がほとんどない
一般的な健康診断の「レントゲン(X線)」は、心臓の裏や骨と重なる部分に死角があり、小さながんを見つけるのは困難です。 しかし、今回受けられた**「CT検査」は肺を輪切りにして撮影するため、死角がほぼありません。** そのCTで「異常なし」とお墨付きをもらったことの意味は非常に大きいのです。
疑問:「10年先」までは保証できないの?
図にあるように、「5年は太鼓判」ですが、「10年」となると少し話が変わってきます。
・5年(科学的な安全圏) 今ある細胞の状態から予測できる範囲です。「今、種がないなら、5年で木にはならない」と言い切れます。
・10年(新たな発生のリスク) 10年という長い期間があると、「今は正常な細胞」が、数年後に突然変異を起こしてがん化し、そこから成長し始める可能性がゼロではなくなります。未来に新しく生まれるがんまでは、現在のCTでは予測しきれないため、「絶対」とは言えなくなるのです。
ただし、喫煙歴のない方が今後10年以内に肺がんになり、命に関わる状態になる確率は、統計的に見ても非常に低いと言えます。
今後の賢い付き合い方
「5年間は心配ない」という医師の言葉を信じて、安心して過ごしてください。 その上で、以下のプランを心の片隅に留めておくと完璧です。
1.向こう5年間
肺がんの心配は忘れて過ごして大丈夫です。毎年のCT検査も被曝のデメリットがあるため、基本的には不要です。
2.5年〜10年の間
年に1回、自治体や職場の健診で**「胸部レントゲン」**だけは受けておきましょう。万が一の変化を捉えるための十分な保険になります。
3.もし症状が出たら
「5年大丈夫と言われたから」と過信せず、もし「長引く咳」「血痰」「胸の痛み」などが出た場合は、期間に関係なくすぐに呼吸器内科を受診してください。
今のあなたの肺は**「健康そのもの」**と言える状態です。自信を持って日常を楽しんでください。
たまたま受けた胸部CT検査で肺に小さな結節を指摘されました。定期的な胸部CT検査を指示されましたが不安です。
肺の小さな結節について
1.小さな結節の診断の難しさ
・大きな結節とは異なり、小さな結節は画像だけで確実に診断するのが難しく、最終的に確定診断には手術での摘出が必要になることがあります。
・しかし、実際には小さな結節の多くは良性や炎症性の変化です。
2.悪性の可能性と進行性
・小さな結節が悪性であっても、多くは進行の遅い「早期の治る肺がん」であることが知られています。
・画像的に肺がんが強く疑われる結節を除き、一定の基準以下の大きさの結節は、すぐに手術や針生検を行わずに経過観察とするのが一般的です。
3.経過観察の方法
・経過観察はCT検査で行い、その間隔は結節の性状(すりガラス影か充実影かなど)、大きさ、喫煙歴などによって決まります。
・一般的には5年間の経過観察が推奨されており、その間に増大するようであれば精密検査や手術を検討します。
4.長期経過の課題
・5年間問題がなければ安心できることが多いのですが、実際には5年を過ぎてから大きくなる例もあります。
・そのため「いつまで経過をみるか」は非常に悩ましい課題です。
「過度に心配しすぎる必要はないが、安心のために定期的なCTで見守ることが大切」
日本CT検診学会から下図のような指針が示されています。

(症例1)82歳 女性

胸部CTで右上葉、○枠、矢印の部位に10㎜大の結節(すりガラス型)を認めました。

9年後の胸部CTにおいても、大きさに変化は認められません。
この所見は癌ではなく前癌状態と考えられ、積極的な手術の適応はなく、引き続き経過観察を行っています。
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(症例2)63歳 男性

右上葉 左下葉
右上葉、○枠、矢印の部位に6.9㎜大の結節(すりガラス型)、
左下葉、○枠、矢印の部位に5.6㎜大の結節(すりガラス型)を認めました。

右上葉 左下葉
9年の経過で右上葉の結節は6.9㎜から9.1㎜大に、左下葉の結節は5.6㎜から6.3㎜大に増大したため、期間を開けて2回胸腔鏡下肺部分切除が行われました。
結果は両方とも早期肺がん(上皮内癌)であり、これで完治したと考えられます。
この人の場合、他の部位にもより小さなすりガラス型結節がみられ、経過観察中です。
このようにすりガラス型結節は多発することもあります。
・・・・・・・・・・
(症例3)67歳 女性

胸部CTで○枠、矢印の部位に8㎜大の結節(充実型)を認めました。

6年の経過で8㎜から11㎜大に増大したため、手術が行われましたが、早期肺がんでした。
この症例の臨床的なポイントとしては:
・長期経過観察中の小結節でも、緩徐に増大していく場合は悪性の可能性がある。
・増大速度が遅くても、結果的に早期肺がんであることがある。
・手術により完全切除できたことで「根治が期待できる」ケースと考えられる。
胸部CT検診で小さな結節が見つかり、肺内リンパ節が疑われました。どのような病気ですか。
肺内リンパ節(intrapulmonary lymph node)とは?
肺内リンパ節は、肺の中にある “リンパ節” が写ったもので、放置しても構わないものです。
胸部CT検査では小さな結節(こぶ)のように見えることがあり、CTで見つかる結節の約2割前後がこの肺内リンパ節といわれています。
比較的よく見られる結節で、胸膜(肺の表面の膜)の近くにできるのが特徴です。
原因
・体の通常構造:裂隙や胸膜の近くにあるリンパ節が見えているだけ
・炎症のあと:かぜ・気管支炎・軽い肺炎の反応で少しふくらむことがある
・微粒子への反応:喫煙や粉じんなどでリンパ節に“すす”がたまる
・加齢変化:年齢とともに小さな瘢痕が目立って見えることがある
できやすい場所
・肺の裂(葉間)や胸膜から約15mm以内に多い
・肺の中葉・下葉にやや多い傾向
CTでの典型的な見え方
・形: 三角形、レンズ形(扁平)、多角形で平たい印象
・辺縁: なめらか(スムーズ)、トゲ状の突出(スピキュラ)なし
・濃度: 均一な充実性。空洞やすりガラス成分は通常なし
・大きさ: 多くは3〜8 mm(概ね10 mm以下)
・周囲の所見:結節と胸膜の間に小葉間隔壁と考えられる線状影あり
鑑別(肺がんとの違いの目安)
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肺内リンパ節 |
肺がん |
|
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位置 |
胸膜や裂の近く |
どこにでも発生 |
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形 |
平たい三角形・レンズ形 |
円形〜不整形 |
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辺縁 |
平滑 |
スピキュラや胸膜陥入を伴うことあり |
|
濃度 |
均一充実性 |
すりガラス成分や空洞を伴うことも |
|
周囲変化 |
なし |
血管収束、胸膜陥入などを伴いやすい |
臨床上の扱い(フォローの考え方)
・典型例:良性と判断され、追加の経過観察は不要なことが多いです。
・非典型例:形が不整、サイズが大きい、喫煙歴や悪性腫瘍の既往がある場合などでは、一般的な肺結節のガイドラインに沿って経過観察CTを検討します。
(症例1)典型的な肺内リンパ節
4.96㎜大の充実性多角形の小結節で、胸膜との間に線状影あり(緑矢印)。

(症例2)増大した肺内リンパ節

X年 X+9年
充実性多角形の線状影を伴う結節ですが、9年の経過で増大したので切除された。
結果は肺内リンパ節であった。