ましもと内科呼吸器科

非結核性抗酸菌症 マック症

家族(60歳、女性)が非結核性抗酸菌症と診断されました。どのような病気なのでしょうか。

非結核性抗酸菌症(MACマック症)とは

  1. 原因菌
    ・**非結核性抗酸菌(NTM)**による感染症。
    ・日本では MAC菌(アビウム菌+イントラセルラーレ菌) が大多数を占めるので、MAC症とも言われる。
    ・MACはMycobacterium avium complex(マイコバクテリウム・アビウム・コンプレックス)**の略です。結核菌ではない“非結核性抗酸菌(NTM)”のうち、M. aviumアビウム菌M. intracellulareイントラセルラーレ菌などよく似た菌のグループを指します。
  1. 疫学
    有病率は20から100/10万人、男女比は女性優位(おおむね女性:男性 2:1)
    ・中高年女性が多い。
    ・結核と違い、人から人へは感染しない
    ・水や土壌など自然界に広く存在する菌から感染。
  1. 病態と経過
    ・結核よりも進行は緩徐
    ・病変は消長を繰り返しながら 10〜20年かけて悪化
    ・初期は自覚症状が乏しく、健診の胸部X線で偶然発見されることも多い。
  1. 臨床症状
     進行すると咳 痰 血痰 発熱などが出現。
  1. 診断
    ・胸部CT:比較的特徴的な陰影。
    ・喀痰培養:同じ菌が2回以上検出されること。
    ・血液検査(MAC抗体検査)
       感度:84%  特異度:ほぼ100%
       陽性ならMAC症の可能性が極めて高い。
  1. 治療
    薬が効きにくいのが特徴。
     ・2種類の抗結核薬 + クラリスロマイシン
     ・投与期間:1年以上
     ・ただし、治療に難渋・再発例も多い。
     ・自覚症状がない場合や高齢者では 無治療で経過観察することも選択肢。

ごく初期のMAC症

肺の前の方に位置する中葉、舌区という部位に、小さな粒々の陰影と微小な気管支拡張症を認める(

かなり進行したMAC症

多発空洞()を認める 予後不良のパターン

非結核性抗酸菌症(マック症)は、なぜ中年〜高齢の女性に多いの?

ひとことで言うと
 原因はひとつではなく、**体質・体型(やせ型など)・ホルモン変化(閉経後)・気道の動き・生活環境(水まわりや土)**が重なって起こりやすくなる、と考えられています。確定した“唯一の原因”は分かっていません。

よくある背景(複数が重なることが多い)
・やせ型・胸の骨格の特徴
 比較的やせた体型、軽い脊柱側弯(背骨の湾曲)や胸郭の形の影響で、痰がたまりやすく気管支拡張になりやすいタイプがあります。痰がたまる→菌が住みつく、という悪循環が起きます。
・ホルモンの変化(閉経前後)
 エストロゲンや副腎由来ホルモンの低下と関連する可能性が示されています。女性ホルモンが下がる時期に発症が増える理由のひとつと考えられています。
・逆流や咳の弱さ・たまりやすさ
 胃食道逆流(夜間の逆流や誤嚥)、痰をうまく出し切れない体質/習慣があると、気道内に菌が残りやすくなります。

 中年女性に多い理由は、中年女性が単に水や土の環境に接触する時間が長いからではありません。やせ型や気道の痰がたまりやすい体質、胃食道逆流、閉経前後のホルモン変化など複数の要因が重なると発症しやすくなるためと考えられています。

日本でも女性に多いの?
 はい。日本の大規模データでも、中高年女性の患者さんが多いこと、患者数が年々増えていることが報告されています。

なぜ生活上の“感染(環境)対策”が必要?

環境からの曝露を減らす生活習慣で、進行・再感染のリスクを減少させます。

原因は“人から人”ではなく“生活環境”
 肺MAC症の菌は、水まわり(浴室・シャワーヘッド・排水口)や土に多くいます。日本を含む研究で、浴室やシャワー由来のNTM(非結核性抗酸菌)が豊富に検出され、患者さんの菌と環境中の菌の近縁性が示されています。強い飛沫(ミスト・ジェット)を吸い込む機会が多いほど発症と関係しうることも報告されています。

“再感染を防ぐ”だけでなく、“悪化を抑える”ため
 たとえ治療前でも、同じ環境から新たに菌を取り込み続けると、気道内の菌量が増え、炎症が続いて病気が進みやすくなる可能性があります(完全に証明する治験は少ないものの、専門学会は曝露を減らす生活工夫を推奨しています)。

MACは“入れ替わる”ことがある(再感染の概念)
 治療後の再発は同じ菌の再燃だけでなく、新しい菌による再感染も少なくありません。遺伝学的解析でも、別株への入れ替わり複数株の混在が示されています。環境対策はこの“入れ替わり”の機会を減らす意味があります。

環境対策=「ゼロにする」ではなく「量を減らす」工夫
 ・水しぶき・ミスト・ジェット(浴室・スパ・加湿器・ネブライザー)の管理と換気
 ・シャワーヘッドや排水口の定期洗浄
 ・土いじり時のマスク・手袋・散水で粉じんを減らす
 ・栄養・体力づくり

非結核性抗酸菌症(マック症)の予後を教えてください。

まず知っておきたいこと
 ・肺MAC症はゆっくり進む方が多い病気です。5年のあいだに亡くなる方はおおむね10〜30%前後ですが、年齢・体力・画像のタイプで個人差があります。
 ・空洞を伴うタイプや、やせ(低BMI)・低アルブミンがある方、高齢・男性の方は注意が必要です。

病気の進み方
 ゆっくり型 結節・気管支拡張型(NB型)(多くはこちら 予後良好 女性に多い)
 ・結節・気管支拡張型(NB型)とは:CT画像にて小さな粒(小結節)や気管支拡張像が見られる。
  
 ・咳・痰が続くものの、数年〜10年単位で少しずつ画像が変化。5年で約4割、10年で約半数に画像の悪化がみられ、悪化までの中央値は約9年です。
 ・MAC症そのものが直接の原因で亡くなる割合は低めです。
 ・症状や広がりが軽ければ経過観察も選択肢。

 ●進行が早い型 線維空洞型(FC型)(要注意 予後不良 男性に多い)
 ・線維空洞型(FC型)とは:CT画像にて空洞がみられる。
 ・体重減少・栄養不良間質性肺炎の合併がある場合などは進みやすく、感染症関連の死亡リスクが上がります。
 ・速やかな治療開始を考慮。