肺炎
肺炎とは? かぜや気管支炎との違いは?
肺炎とは?
肺炎の原因にはいろいろありますが、もっとも多いのは細菌やウイルスなどの病原体によるものです。まれに、薬剤・放射線・アレルギーなどで起こる肺炎もありますが、ここでは日常でよくみられる「病原体による肺炎」について説明します。
炎症とは
けがをすると、出血・腫れ・痛みが生じ、分泌液が出たり、化膿したりします。これが「炎症」です。肺炎は、この炎症が肺の中で起こった状態です。炎症によって分泌物や膿がたまり、それが痰となり、痰を出そうとして咳が出ます。また、発熱や胸の痛みを伴うこともあります。
診断の方法
肺は空気が多く含まれるため、胸部X線では黒く映ります。肺炎になると分泌物や膿で空気の部分が埋まり、白い影として見えるようになります。これで肺炎と診断できますが、X線で見えない肺炎が胸部CTで見つかることもあります。
かぜ・気管支炎との違い
・かぜ:鼻やのどなど上気道の炎症
・気管支炎:気管支に限局した炎症
・肺炎:肺実質に炎症が広がったもの
かぜや気管支炎は主にウイルスが原因のため、抗生剤は効きません。一方、肺炎は細菌が原因となることが多く、抗生剤が有効です。
注意点
かぜ・気管支炎・肺炎はいずれも咳・痰・発熱など似た症状が出るため、区別が難しいことがあります。さらに、かぜや気管支炎から肺炎へ進行することもあるため、症状が強くなったり長引いたりする場合は注意が必要です。
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90歳台 女性

発熱、咳、痰があり、○枠のような白い影があれば、まず肺炎が強く疑われます。
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60歳台 女性

高熱と咳で受診され、胸部X線を撮るも肺炎像を確認できませんでした。この時点では、かぜ/気管支炎なのか、肺炎なのかわかりません。

血液検査で炎症反応が高値でしたので、胸部CTを撮ったところ、両肺背側の、○で囲んだ領域が白くなっていました。
これが肺炎の影であり、このCT所見より肺炎の的確な治療が行えました。
肺炎は人から人にうつるのですか。
「うつる肺炎」は一部のみ
日常でみられる多くの肺炎は人から人へは感染しません。隔離が必要なケースは多くありません。
最も多い肺炎の原因は肺炎球菌でこれはうつりません
・肺炎球菌は口や鼻に常在する菌
・かぜ・体力低下時に微小誤嚥で肺へ入り発症(微小誤嚥性肺炎)
・感染症というより「体力・免疫低下のサイン」
・人にうつす心配は基本的にない
人から人に感染する代表的肺炎
(マイコプラズマ肺炎 新型コロナ感染症)
・他人から病原体をもらうことで発症
・感染対策(マスク・隔離)が重要
・健康な若年者でも発症し得る
臨床での見分け方
・症状や血液検査である程度推定
・最終確定は抗原検査・遺伝子検査で行います
乾いた頑固な咳が持続し、熱が下がりません。セフェム系抗生物質が効きません。子供も同じ症状でした。マイコプラズマ肺炎でしょうか。
その可能性は十分あります。マイコプラズマ感染症を参照してください。
肺炎を予防するワクチンには2種類あると聞きました。どう違い、どう使い分けるのですか。
成人の肺炎予防ワクチンについて
・大人の肺炎を予防するための代表的なワクチンには、ニューモバックス(PPSV23) とプレベナー(PCV20) の2種類があります。
・これらはいずれも「肺炎球菌ワクチン」と呼ばれ、最も多い肺炎の原因菌である肺炎球菌を対象としています。
・肺炎の原因は肺炎球菌以外にインフルエンザ桿菌、モラクセラ、ブドウ球菌、マイコプラズマ、ウイルスなどと多く、肺炎球菌ワクチンはそれらには効きません。また、肺炎球菌でもワクチンに含まれない血清型による発症は起こりえます。
・ワクチンは重症化・侵襲性感染症のリスクを下げるのが主目的で、発症をゼロにはしません。
1.ニューモバックス
(PPSV23:肺炎球菌多糖体ワクチン)
・PPSV = Pneumococcal Polysaccharide Vaccine(肺炎球菌多糖体ワクチン)の略です。23種類の血清型を含む製剤。
・肺炎球菌は細胞壁の外側を「莢膜(きょうまく)」という多糖体で覆われています。
・ニューモバックスはこの莢膜多糖体を精製してそのまま使うワクチン(多糖体ワクチン)です。
・接種により抗体が作られますが、免疫記憶はできません。したがって、5年経つと効果が薄れます。
・最新の国内指針では、「ニューモバックスの再接種は原則として選択肢としない」とされています。
・65歳時に公的助成で接種できます(山口市の場合、2870円)。当院では65歳以外は8000円。
2.プレベナー20
(PCV20:肺炎球菌結合型ワクチン)
・PCV = Pneumococcal Conjugate Vaccine(肺炎球菌結合型ワクチン)の略です。Pneumococcal=肺炎球菌 Conjugate=(莢膜多糖体をキャリア蛋白に“結合”させた) Vaccine=ワクチン 20種類の血清型を含む製剤。
・莢膜多糖にタンパク質を結合させて“免疫記憶”を作りやすくしたワクチン(結合型ワクチン)です。
・免疫記憶が得られるため持続的な予防効果があり、1回接種にて完了で、追加接種は必要ありません。
・接種費用は当院では11000円、公的助成は現時点ではありません。
3.2つのワクチンをどう使い分けるか
●65歳でニューモバックス定期接種(公費)の方:
ニューモバックス接種後、 1年以上あけてプレベナー20を1回追加接種 で 完了(以後のニューモバックスの繰り返し接種は通常不要)。
●すでにプレベナー20を先に接種した方:
ニューモバックスの追加は通常不要。制度上は65歳でニューモバックスの定期接種対象でも、医療的必然性は乏しい。
●すでにプレベナー13(2024年10月以前に接種されていた、血清型が13種類しかないプレベナーワクチン)を先に接種した方:
プレベナー13接種後、 1年以上あけてプレベナー20を1回追加接種 で 完了。
●すでにプレベナー13とニューモバックスの両方を先に接種した方:
最後の肺炎球菌ワクチンから1年以上あけて、プレベナー20接種で完了。
熱はありませんが、数週間、咳が持続するので、病院を受診したところ、肺炎と診断されました。熱のない肺炎は多いのでしょうか。
・発熱と咳は肺炎の典型だが、必ず両方出るわけではない。
・咳は続くが発熱なしで肺炎が見つかることは珍しくない。
・まれに結核・肺がんなどが隠れていることもあり要注意。
・胸痛のみで見つかる肺炎や、高熱なのに咳が出ない肺炎もある。
・高齢者では非典型:発熱・咳が目立たず、元気がない・食欲不振などで受診し、進行した肺炎が見つかることがある。
・迷ったら受診:長引く咳、原因不明の高熱・胸痛、体調の著しい低下があれば早めの受診と胸部画像・検査を。
肺炎を短期間に繰り返すのですが、何故でしょうか。
「最近、肺炎を短い間隔で何度も起こす」という患者さんを診ることが多くなりました。
背景に見えにくい病気や生活・嚥下(えんげ)機能の問題が隠れていることがあります。
考えられる主な原因
・胸部X線で見つかりにくい病気
気管支拡張症、COPD(肺気腫)、肺がんなどは、胸部X線だけでは見落とされることがあります。→ 胸部CT検査の実施をおすすめします。
・誤嚥性(嚥下性)肺炎
年齢とともに飲み込み(嚥下)機能が低下し、食べ物・唾液・胃液が気管に入って肺炎を起こします。
認知症、脳血管障害後、パーキンソン病、鎮静・睡眠薬の服用、アルコールなどで「むせの反射」が弱いと起こりやすくなります。
・免疫機能の低下
糖尿病、低栄養/体重減少、ステロイドや免疫抑制薬の内服、がん治療中 など。
・同じ部位で繰り返す肺炎
気道の閉塞(腫瘍や異物、狭窄)、解剖学的な狭さ・変形が疑われます。
・ばらばらの部位で繰り返す肺炎
誤嚥、気道クリアランス不良(痰が出しにくい)、慢性副鼻腔炎(後鼻漏)、胃食道逆流などが関与します。
参考:**「同じ場所」対「いろいろな場所」**という再発パターンは、原因の見当をつける手がかりになります。
まず受けておきたい検査・評価
・胸部CT(X線で見落としやすい病変の確認)
・痰検査(細菌・抗酸菌・真菌の検索、薬剤感受性)
・血液検査(炎症・栄養状態、血糖/HbA1c、必要に応じ免疫グロブリン)
・嚥下機能評価(耳鼻科で精査)
・口腔内評価・歯科受診(歯周病・義歯適合・口腔清掃状態)
・副鼻腔・胃食道逆流の評価、薬剤(鎮静薬・抗コリン薬など)の見直し
再発予防のポイント
・口腔ケアの徹底(最重要)
歯磨き・舌清掃・義歯の毎日洗浄、就寝前のうがい、定期的な歯科受診。
・ワクチン接種
肺炎球菌ワクチン、インフルエンザワクチンの接種で発症・重症化リスクを下げます。
・食事・姿勢の工夫(嚥下対策)
座位でゆっくり、一口量を少なめに、むせやすい方はとろみ付けなどを検討。
食後30~60分は上体を起こす/就寝時は頭側を高く。
言語聴覚士による嚥下リハビリの併用が有効です。
・痰を出しやすくする工夫
十分な水分摂取、加湿、呼吸リハビリ・排痰手技(必要に応じ理学療法士と連携)、去痰薬の適切な使用。
・基礎疾患のコントロール
糖尿病・栄養状態の改善、禁煙、飲酒量の見直し、睡眠薬・鎮静薬の調整。
・生活全般
十分な睡眠、適度な運動、手指衛生、流行期のマスク活用。
受診の目安(すぐ相談を)
息切れ・呼吸困難、強い倦怠感、高熱や寒気、痰が増えて色やにおいが変化、意識がぼんやり、脱水、青あざのような唇の色 などがある場合、肺炎の急速な進行が疑われます。
誤嚥性肺炎(嚥下性肺炎)について教えてください。普通の肺炎との違いは?
誤嚥性肺炎と嚥下性肺炎は
・意味はほぼ同じで、どちらも「飲み込んだものが気管に入ることで起こる肺炎」。
・厳密には、誤嚥性肺炎の方が包括的で、微小誤嚥による慢性的な肺炎も含む。
・嚥下性肺炎は「嚥下障害が原因」というニュアンスがやや強調される。
誤嚥性肺炎とは?
誤嚥性肺炎は、飲み込んだもの(食べ物・唾液・胃液など)が気管に入ってしまい、肺に炎症が起こるタイプの肺炎です。
特に高齢者では、飲み込む力(嚥下反射)や咳き込んで異物を外へ出す力が弱くなるため、起こりやすくなります。
・原因:誤嚥(食べ物、唾液、胃液などが気管に入る)
・起こりやすい状況:食事中のむせこみ、食後すぐ横になる、夜間の胃液逆流、寝たきりの方
・リスク因子:脳卒中後、パーキンソン病、認知症、加齢による嚥下機能低下
・肺炎の部位:重力に従った部位(背側優位)に多い。
普通の細菌性肺炎と誤嚥の関係
実は、細菌性肺炎の多くは“広い意味で誤嚥性”と考えられます。
理由は、肺炎の原因菌の多くが口の中や咽頭にいる常在菌だからです。
・健康な人でも睡眠中に少量の唾液や分泌物が気管に入る(微小誤嚥)
・免疫が正常なら問題なく処理される
・体力低下や基礎疾患があると、処理しきれず肺炎になる
狭い意味での「誤嚥性肺炎」
ただし、医療現場では「誤嚥性肺炎」というと、次のような状況を指すことが多いです。
・食事中にむせて食べ物が気管に入った後に発症
・夜間の胃液逆流や大量の唾液誤嚥による肺炎
・嚥下障害(脳卒中後、パーキンソン病、認知症など)が原因
つまり、「はっきりした誤嚥エピソード」「繰り返しやすい高齢者の肺炎」を区別して呼んでいます。
誤嚥性肺炎と普通の細菌性肺炎(肺炎球菌性肺炎)を比較しました
| 項目 | 誤嚥性肺炎 (大量の誤嚥による狭義の誤嚥性肺炎) |
細菌性(肺炎球菌性)肺炎 (微小誤嚥による広義の誤嚥性肺炎) |
|---|---|---|
| 成り立ち(原因) | 食物・唾液・胃内容物が気道へ誤って入ることで発症(明らかな誤嚥) | 肺炎球菌が上咽頭に定着→体調不良・ウイルス感染→微小誤嚥などを契機に発症 |
| うつるか | 人から人へ直接はうつらない(誤嚥が原因) | 飛沫で鼻腔、咽頭に菌が定着=即発症ではない |
| 好発 | 高齢者、脳血管障害、認知症、パーキンソン病、嚥下障害、鎮静薬・大量飲酒 | 高齢者、慢性疾患(心・肺・肝・腎)、免疫低下、冬季 |
| 典型症状 | 発熱は軽~中等度、湿った咳・痰、食事中/後のむせ、夜間増悪、口腔不潔 | 急な高熱・悪寒、膿性痰、胸痛、息切れ |
| 身体所見 | 口腔内不潔、嚥下反射低下、誤嚥の既往 | 肺の聴診で湿性ラ音が明瞭なことが多い |
| 肺炎の分布 | 重力依存部位に浸潤影:背側、尾側 | 両肺どこにでも見られる |
| 検査のポイント | 嚥下評価(反復唾液嚥下テスト等)、口腔内評価、誤嚥リスク聴取 | 尿中肺炎球菌抗原、喀痰培養、 |
| 主な治療 | 誤嚥対策+抗菌薬:ABPC/SBT 等(嫌気性菌も想定)※重症度・地域差で選択 | βラクタム系(アモキシシリン等)。重症や合併症ではセフトリアキソン等 |
| 予防 | 口腔ケア、嚥下訓練、食形態調整、食後30–60分の座位保持、就寝前の歯磨き、薬(鎮静薬・PPIなど)の見直し | 肺炎球菌ワクチン(推奨年齢・基礎疾患あり)、手洗い・咳エチケット、禁煙 |
| 再発 | 繰り返しやすい(原因対策が重要) | 体調や季節で発症するが原因対策で抑制可 |
| 受診の目安 | 食事中/後のむせ、咳・痰が長引く、夜間増悪、発熱・息切れ | 高熱・膿性痰・胸痛、息切れ、全身状態の悪化 |
寝落ち(夕食/飲酒後、歯磨きもせずにすぐに寝込む)していると肺炎になりますか。
「寝落ち=必ず肺炎」ではありません。
ただし条件が重なると誤嚥(ごえん)性肺炎のリスクは上がります。
理由
眠ると咳や飲み込む反射が弱まり、食べ物・胃液・唾液が気道に入りやすくなるため。
リスクが高い場面・人
・食後すぐ就寝/深酒してそのまま寝る、仰向けで熟睡
・逆流性食道炎、いびき・睡眠時無呼吸
・高齢者・脳梗塞後・パーキンソン病などで嚥下機能が低下
・睡眠薬・抗不安薬・オピオイドの内服中
・口腔ケア不足(歯周病、汚れた入れ歯)
予防のコツ
・食後2–3時間は横にならない(就寝前の飲食・深酒を控える)
・就寝前に歯みがき・うがい
・頭側を少し高くして寝る(10–30°)
・逆流が強い人は夕食を早め・少なめ、必要なら治療相談
・強いいびき/無呼吸は検査・治療を検討
受診の目安
・むせた後、数時間〜1日で発熱・濃い痰・胸痛・息切れ
・むせやすい/声が湿る/飲み込みにくいが続く
まとめ
寝落ち自体で即肺炎にはなりませんが、食後すぐの就寝・深酒・口腔ケア不足が重なると誤嚥性肺炎のリスクが上がります。心当たりがあれば生活習慣と口腔ケアの見直しを。