禁煙治療
健康保険による禁煙治療ができる条件は?
当院では健康保険による禁煙治療を行っています。
無条件で保険診療による禁煙治療ができるわけではありません。
保険適用を受けるには、次の条件を満たす必要があります。
1)TDS(ニコチン依存症スクリーニングテスト)で5点以上と判定されていること ニコチン依存症スクリーニングテスト
2)35歳以上の方はブリンクマン指数(=1日の喫煙本数×喫煙年数)が200以上であること(35歳未満はこの要件は不要)
3)直ちに禁煙する意思があること
4)標準手順書による説明を受け、文書で同意していること
5)過去1年以内に、保険での禁煙治療を受けていない
※加熱式たばこの使用者も保険適用の対象です。
※治療プログラムは原則12週間(初診を含め、計5回の受診)。
保険診療で使用される禁煙治療剤は?
1)経皮吸収型貼付剤:ニコチネルTTS(一般名:ニコチン)
①どんな薬?
・ニコチンを皮膚からゆっくり吸収させる貼り薬です。通称ニコチンパッチ。
・「吸わないことで急にニコチンゼロ」にせず、少量のニコチンでイライラ・集中困難などの離脱症状を軽くすることで、禁煙を続けやすくします。
・1日1枚、上腕・胸・腹部などに貼り、段階的に用量を減らしながら8週間使用します。
②安全性と注意点
・主な副作用:皮膚のかゆみ・かぶれ、頭痛、めまい、吐き気、睡眠の質の変化など
・貼ったまま喫煙すると、ニコチン過量となる可能性があるため、パッチ開始と同時に禁煙が原則です。
③費用の目安(保険3割負担で)
12週間・5回通院+薬剤費を合わせて、自己負担は 9330円です。
2)経口禁煙補助薬:チャンピックス錠(一般名:バレニクリン酒石酸塩)
①どんな薬?
・脳のニコチン受容体に作用する飲み薬です。
・最初の1週間で少しずつ増量し、その後は決まった量を続け、12週間内服します。
②開始直後は「喫煙しながら内服してよい」薬です
・1〜7日目:チャンピックスを少量から増量しながら内服
→ この期間は喫煙していて構いません。
・8日目以降は禁煙を継続する、という設計です。
趣旨としては:
・最初の1週間で血中濃度をならし、タバコの満足感を下げておく
・その上で禁煙開始日を迎えることで、「吸ってもおいしくない+離脱症状が軽い」状態にしておく
ので、「飲み始めた瞬間から完全禁煙しなさい」という薬ではありません。ニコチネルとの違い。
③作用機序
脳には「α4β2ニコチン受容体」という、ニコチンが結合すると快感物質ドパミンが出るスイッチがあります。
チャンピックスはこの受容体に対して:
1)部分作動薬(少しだけ刺激)
・ニコチンの代わりに結合し、少量のドパミンを出して、
・禁煙時のイライラ・落ち着かない感じを軽くします。
2)拮抗薬(ブロック)
・タバコのニコチンが受容体に結合するのを邪魔して、
・吸っても「あまりおいしくない」「前ほど満足しない」状態にします。
この「少し満たして、しっかりブロックする」作用により、禁煙成功率が高いとされています。
④主な副作用
●よく見られる副作用
吐き気、頭痛、便秘・お腹の張り、口が渇く、不眠、夢が生々しい・変な夢を見る、軽いめまい・眠気など
●注意が必要な症状(すぐに受診)
・強い眠気、意識が遠くなる感じ、ボーッとして判断力が落ちる
・めまいが強くふらつく、視界がおかしい
・ひどい不眠、悪夢で眠れない
・気分が著しく落ち込む、イライラが強い、攻撃的になる
・「生きていたくない」などの思考が出てくる
・けいれん発作
・発疹・じんましん、顔や唇・喉の腫れ、息苦しさ(アレルギー反応の疑い)
・胸の痛み、息切れ、動悸など心臓の症状
これらは頻度としては多くありませんが、重くなる前に対応が必要な副作用です。
⑤運転・危険作業について
本剤の副作用として、突然の強い眠気や意識が遠くなる感じ、めまいなどが起こり、交通事故につながった報告があります。
服用中は、自動車の運転や高所作業など危険を伴う機械の操作は行わないでください。
⑥費用の目安(保険3割負担で)
禁煙治療剤による禁煙成功率は?
ニコチネルとチャンピックスの禁煙成功率の違い
ニコチンネルなどの「ニコチン補充療法」は、何も使わない場合に比べて禁煙成功率を約1.5倍に高めることが分かっています。
一方、チャンピックスはニコチンネル単剤よりも禁煙成功率が高いことが多くの研究で示されています。
目安として、6〜12か月時点での禁煙継続率は、
・ニコチンパッチ単剤:約10〜15%
・チャンピックス:約20〜25%
と報告されており、チャンピックスの方が1.2〜1.5倍程度、禁煙に成功しやすいと言えます。
薬剤を使用しても、意外と禁煙成功率が低いように思われます。
しかし。意志だけで禁煙できる人は20人に1人と言われていますので、チャンピックスでの4から5人に1人が禁煙できるという数字を見れば印象が変わります。
ニコチン依存症とは?
「タバコをやめたいのに、やめられない」
その状態自体が 病気(依存症) です。意志が弱いからではありません。
1.ニコチン依存症の正体
タバコや加熱式タバコに含まれるニコチンには、脳に「快感・落ち着き」をもたらす作用があります。
・ニコチンが入る → 一時的にスッキリ・リラックス
・時間がたつ → 血中ニコチンが減る → イライラ・落ち着かない・集中できない
・その不快感を消すために → また吸ってしまう
この 「不快感をなくすために吸わされている」状態が依存症 です。
2.ニコチン依存症の特徴(当てはまると要注意)
次のようなことが続いていれば、ニコチン依存症の可能性があります。
・朝起きてすぐ、または30分以内にタバコを吸いたくなる
・吸う本数を減らそうとしても、結局元に戻ってしまう
・「体に悪い」「お金がもったいない」と分かっていてもやめられない
・風邪・病気・入院中でも、タバコが吸えずイライラしてしまう
・家族にやめてと言われてつらく感じるが、それでも吸ってしまう
3.なぜ「病気」として治療するのか
・喫煙は 肺がん、COPD(肺の生活習慣病)、心筋梗塞、脳卒中 など多くの病気の最大の原因です。
・加熱式タバコも「安心」ではなく、ニコチン依存を続ける製品 です。
・自力だけで禁煙しようとしても、多くの方が再開してしまいます。
→ これは意志の弱さではなく、「ニコチンが脳をつかまえている」ためです。
だからこそ、高血圧や糖尿病と同じように、医療機関で治療する価値がある病気 と考えます。
4.禁煙するとどうなる?
・息切れしにくくなる
・咳・痰が減る
・食事の味や匂いが分かりやすくなる
・将来の病気のリスクが大きく減る
・家族や周囲を受動喫煙から守れる
・タバコ代の負担が減る
禁煙は、始めた日から体に良い変化が始まります。
一人で悩まず、「やめたい」と思った時にご相談ください。
「本数が少ないから大丈夫」と感じている方も、早めの相談が安心につながります。
紙巻たばこ以外に加熱式たばこや電子タバコなどがあります。これらも体に悪いのですか?
「紙巻たばこは吸っていないけど、加熱式なら安心」「電子タバコは水蒸気だから無害」
こうしたイメージがありますが、どの製品も“安全”とはいえません。
1.紙巻たばこ(通常のたばこ)
特徴
・葉タバコを燃やして煙を吸う製品
・燃焼温度:約800℃以上
・ニコチン、多数の有害物質(タール、一酸化炭素、発がん物質など)を大量に含む
なぜ体に悪い?
・肺がん、COPD、心筋梗塞、脳卒中など多くの病気の明確な原因
・強いニコチン依存を生じる
・副流煙により、周囲の人も同じ有害物質を吸い込む(受動喫煙)
2.加熱式たばこ(IQOS®, glo®, Ploom®など)
特徴
・タバコ葉を“燃やさず”、高温で加熱してエアロゾル(煙のような粒子)を吸う製品
・「煙が少ない」「ニオイが少ない」と宣伝される
なぜ体に悪い?
1)ニコチンはしっかり含まれている
・紙巻たばこと同程度のニコチンを含む製品もあり、依存性は変わりません。
2)有害物質は“減るがゼロではない”
・一部の有害物質は紙巻より少ないとされますが、発がん物質や有害化学物質は依然として検出されます。
・「健康にほとんど影響がない」と言える根拠はありません。
3)心血管・呼吸器への影響が懸念
・心拍数・血圧の上昇など、紙巻たばこと似た急性影響が報告されています。
4)周囲への影響(受動曝露)
・加熱式の「蒸気」にもニコチンや粒子が含まれ、子どもや同居家族への影響が指摘されています。
ポイント
「紙巻よりマシ」かもしれませんが、「安全」「無害」ではありません。禁煙を目的とせず乗り換えるだけでは、健康リスクも依存も残ります。
3.電子タバコ(VAPEなど)
日本では主に:
・リキッド(液体)を電気で加熱して吸う電子デバイス
・「フレーバー付きの蒸気」「おしゃれ」「禁煙に役立つ」と宣伝されることが多い
A. ニコチン入り電子タバコ(海外製・違法輸入など含む)
特徴
・高濃度ニコチンを含むものもあり、依存性は非常に強い。
・若者で問題になっているタイプ。
なぜ体に悪い?
・ニコチンによる依存、動脈硬化促進、心血管リスク
・加熱により、ホルムアルデヒドなどの有害物質、金属粒子などが発生することがある
・肺障害(EVALIなど)との関連が報告されている
・紙巻と併用(デュアルユース)すると、かえって全体の害が増える可能性もある
B. ニコチンなし電子タバコ
特徴
・日本で「ニコチンなし」として販売されているもの
・成分:プロピレングリコール(PG)、グリセリン(VG)、香料など
なぜ体に悪い?
・「ニコチンがない=無害」ではない
・加熱されたPG・VG・香料は、気道の刺激や炎症、咳・息苦しさの原因となる可能性
・ニコチン無配合と表示されていても、実際にはニコチンが検出された例も報告されている地域あり
・最近の研究でも、ニコチンなしVAPEでも肺への悪影響が示唆されています
C. 「水蒸気だから安全」は誤解
・電子タバコのエアロゾルには、ニコチン、微小粒子、揮発性有機化合物、重金属などが含まれることがあり、「ただの水蒸気」ではありません。
・周囲の人もそのエアロゾルを吸い込む可能性があり、「受動ベイピング」の影響が懸念されています。
4.まとめ
・紙巻たばこ
→ 最も有害。多数の病気の原因。
・加熱式たばこ
→ 一部有害物質は減る可能性はあるが、ニコチン依存と健康リスクは残る。「安心」とは言えない。
・電子タバコ(VAPE)
→ ニコチン入りは強い依存と健康リスク。
ニコチンなしでも吸入物質による肺への悪影響が懸念され、「安全」とは言えない。