ましもと内科呼吸器科

睡眠時無呼吸症候群(閉塞性睡眠時無呼吸)

いびきがひどく、起床時の頭痛や昼間の眠気があるのですが、睡眠時無呼吸症候群SAS(閉塞性睡眠時無呼吸OSA)という病気でしょうか。

 睡眠時無呼吸症候群SAS(閉塞性睡眠時無呼吸OSA)の可能性があります。

閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)について
  いびき、寝ている間の呼吸停止、起床時のだるさや頭痛、日中の強い眠気・集中力低下、夜間頻尿、居眠り運転などがあると、OSAが疑われます。
 OSAは特に肥満傾向の中年男性に多く、女性も閉経後に増えることが知られています。

どのくらい多い病気?
 2019年の推計では、日本の中等症以上のOSA940万人とされています。一方で、代表的な治療であるCPAPを実施している方は2020年時点で約64万人と報告され、未治療の方が多い現状です。

なぜ起こるの?(原因)
 睡眠中に上気道(のど)が狭く/ふさがることで、呼吸が弱まったり止まったりします。
 背景として、**肥満に伴う上気道周囲の脂肪沈着、小顎(下顎が小さい)、扁桃肥大、舌が大きい(巨舌)**などの体質・解剖学的要因が関わります。

体への影響(何が心配?)
 OSAでは、低酸素と睡眠分断が繰り返され、
 ・高血圧、心不全、心房細動、虚血性心疾患、脳卒中などの心血管・脳血管疾患のリスク上昇
 ・2型糖尿病・インスリン抵抗性との関連
 ・日中の眠気による作業・運転事故のリスク増加
 ・認知機能低下や抑うつとの関連

次のステップ
 症状や体型などからOSAが疑われる場合、まずは自宅での簡易検査(睡眠中の呼吸と酸素の流れを測定)を行い、必要に応じてポリソムノグラフィー(PSG)で詳しく評価します。
 治療はCPAP
のほか、マウスピース(口腔内装置)減量・禁酒/節酒・体位療法、鼻疾患の治療や手術など、患者さんの状態に合わせて選択します。

睡眠時無呼吸症候群SAS(閉塞性睡眠時無呼吸OSA)の診断について教えてください。

 この病気が疑われた場合、まずは入院せずに自宅で簡易検査を行い(3割負担で3000円)、一晩の睡眠を通しての無呼吸(10秒以上の呼吸停止)や、低呼吸(呼吸が浅くなる状態)の頻度をもとに診断していきます。
 1時間当たりの無呼吸数と低呼吸数を合わせたものを、無呼吸低呼吸指数と言いますが、この値が5以上の場合、睡眠時無呼吸症候群と診断します。
 無呼吸低呼吸指数5-15が軽症、15-30が中等症、30以上が重症とされています。

   帝人ファーマ株式会社 帝人ヘルス株式会社の小冊子から引用

睡眠時無呼吸症候群SAS(閉塞性睡眠時無呼吸OSA)の治療について教えてください。

 治療としては、1)生活習慣の改善、2)持続陽圧呼吸療法(CPAP療法)、3)歯科装具による治療、4)手術があります。

1)生活習慣の改善

 減量や、飲酒の制限、禁煙、睡眠薬の制限などにより、睡眠時の無呼吸が改善します。
  仰向けで寝るよりも、横向きで寝ると上気道の閉塞を軽減できる場合があります。
  抱き枕などを使って横向きで寝る工夫をしてみるのも良いでしょう。

 (症例)68歳 男性 
 無呼吸低呼吸指数6.8と軽症の睡眠時無呼吸症候群の患者さんです。しかし、睡眠時間の31%を占める仰臥位では無呼吸低呼吸指数は18.2と高く、中等症の睡眠時無呼吸症候群レベルであり、仰臥位以外の体位(睡眠時間の69%)では無呼吸低呼吸指数は1.7と正常範囲でした。

 
(ウォッチパット300からのデータ)
 この患者さんの簡易検査の一部を示します。左側臥位から仰臥位に体位を変えた直後から、いびきとともに無呼吸・低呼吸が出現し、酸素飽和度の低下や脈拍の増加が確認されました。それまで深い睡眠状態であったにもかかわらず、その後は覚醒反応(目覚め)が頻繁にみられるようになりました。
 以上の結果から、仰臥位での睡眠が問題である(体位依存性睡眠時無呼吸)ことが判明しました。
 そこで抱き枕の使用を勧めたところ、夜間覚醒が減少し、熟睡感が得られ、起床時の爽快感も改善し、さらに日中の眠気も消失しました。
 その後、抱き枕を使用した状態で再検査を行ったところ、仰臥位の睡眠時間に占める割合は31%から16%へ減少し、それに伴い無呼吸低呼吸指数(AHI)は6.8から4.0へ正常化しました。

2)持続陽圧呼吸療法(CPAPシーパップ療法)

 一定圧を加えた空気を、鼻から送り込むことによって、上気道の閉塞を取り除き、睡眠中の気道を確保する非常に有効な治療法です。中等から重症の睡眠時無呼吸症候群にはこの治療が第一選択になります。
 ①簡易検査で、無呼吸低呼吸指数が40以上であれば、健康保険が適応されます。 
 ②簡易検査で、無呼吸低呼吸指数が20以上、40未満の場合は、専門の施設に一泊入院して(3割負担で4-5万円かかりますが)、睡眠状態をトータルにみる検査の結果で、健康保険が適応されます。
 ③簡易検査で無呼吸低呼吸指数が20未満の軽症の場合は、この治療法の保険適応はなく、生活習慣の改善や、歯科装具による治療が選択されます。

3)歯科装具による治療

 マウスピース(スリープスプリント)を作製して、下あごを前方に引き出して空気の通りを良くするものです。マウスピースの作製は歯科で行い、健康保険が適応されますが(3割負担で、1万円から1万5000円程度)、医科から歯科への紹介状が必要です。



(山口県医師会 健康教育テキスト No. 41 睡眠時無呼吸症候群より引用)
 一般に軽症の睡眠時無呼吸症候群が適応になりますが、CPAPを続けることが難しい患者さんに対して使用することもあります。
 マウスピースは軽症例で高い治療効果がありますが、中等症や重症例でも有効な場合があります。

(山口県医師会 健康教育テキスト No. 41 睡眠時無呼吸症候群より引用)
 マウスピースに伴う副作用として、噛み合わせの変化、歯や歯茎の痛み、あご関節の痛み、歯の移動などがあります。

4)手術による治療

 気道閉塞の原因が扁桃腫大などの特殊な場合に限られます。

上気道の閉塞がない、中枢性睡眠時無呼吸CSAについて教えてください。

 睡眠時無呼吸症候群SASは睡眠中に無呼吸や低呼吸が起こる病気の総称で、閉塞性睡眠時無呼吸OSA、中枢性睡眠時無呼吸CSA、両者の混合型から成ります。
 閉塞性睡眠時無呼吸OSAが圧倒的に多いことより、睡眠時無呼吸症候群SASと言えば、ほぼイコール閉塞性睡眠時無呼吸OSAのことです。
 中枢性睡眠時無呼吸CSAは、上気道の閉塞ではなく「呼吸の司令(換気ドライブ)」の乱れで起こります。代表的な背景は、心不全に伴うチェーン・ストークス呼吸、脳幹を含む脳血管障害や神経疾患、オピオイドなど鎮痛・鎮静薬の使用、甲状腺機能低下症、腎不全、先天性中枢性低換気症候群、高地滞在(高地周期性呼吸)などです。