ましもと内科呼吸器科

睡眠時無呼吸症候群

いびきがひどく、起床時の頭痛や昼間の眠気があるのですが、睡眠時無呼吸症候群という病気でしょうか。

 睡眠時無呼吸症候群の可能性があります。
 この病気は、いびき、夜間の呼吸停止、起床時の倦怠感や頭痛、日中の眠気や集中力の低下、夜間頻尿、居眠りによる交通事故などで疑われ、肥満傾向にある中年男性に多く見られ、女性では閉経後に増加するとされています。
 2019年の報告によれば、日本における中等症以上の有病者数は約940万人と推測され、この病気の最も普及している治療法であるCPAP療法(後で説明します)を受けている患者数は約64万人程度であり、多くの方が治療の恩恵を受けていません。
 この病気は上気道、つまり咽頭部の閉塞により引き起こされ、その原因として、肥満に伴う上気道への脂肪の蓄積、小顎症、扁桃腺の腫大、巨舌症などがあります。
 上気道が閉塞すると、呼吸が停止し、酸欠状態を繰り返します。これは睡眠中に溺れる状態と同じであり、また、無呼吸から呼吸を再開するたびに脳が覚醒し、睡眠が分断され、睡眠時間は十分取っているのにもかかわらず、深い眠りを感じにくくなります。
 このような状態が長く続くと、高血圧、糖尿病、心不全、脳梗塞、夜間突然死、認知症などが引き起こされる可能性があります。

睡眠時無呼吸症候群の診断について教えてください。

 この病気が疑われた場合、まずは入院せずに自宅で簡易検査を行い(3割負担で3000円)、一晩の睡眠を通しての無呼吸(10秒以上の呼吸停止)や、低呼吸(呼吸が浅くなる状態)の頻度をもとに診断していきます。
 1時間当たりの無呼吸数と低呼吸数を合わせたものを、無呼吸低呼吸指数と言いますが、この値が5以上の場合、睡眠時無呼吸症候群と診断します。
 無呼吸低呼吸指数5-15が軽症、15-30が中等症、30以上が重症とされています。

自宅で行える睡眠時無呼吸症候群の簡易検査について、具体的に教えてください。

 自宅で手軽に行える睡眠時無呼吸検査の一例として、フィリップス社が提供するウォッチパット300についてご紹介いたします。この検査機器は、指先の血流量を測定することで睡眠時無呼吸を評価する独自の機構を備えています。
 ウォッチパット300は、腕時計型の本体(記録装置)、胸に貼り付けるいびき・体位センサ、そして人差し指に取り付けるUPATプローブから構成されています。UPATプローブは指の血流量を連続的に測定し、その変動を特有のアルゴリズムで解析します。同時に測定された酸素飽和度も合わせ、睡眠段階や無呼吸の有無を識別することが可能です。
 特筆すべきは、UPATプローブの使用により、鼻カニュラ型気流計が不要となり、他の簡易検査とは異なるところです。入院して行う精密検査と比べて劣るものの、睡眠深度(覚醒、REM睡眠、浅睡眠、深睡眠)をある程度把握できます。
 この検査機器はフィリップス社から宅急便で自宅に送られますので、以下のように装着・測定してください。検査結果は通常、返却日から1週間ほどで説明できる見込みです。費用は3割負担で3,000円であり、いびきや昼間の眠気にお悩みの方はご相談ください。
 尚、治療効果をみるためなどで再検査をする場合、保険診療の関係で6か月開けないと検査はできません。

(宅急便で送付されるもの)

(収納ケースの中身)

(順序1 いびき・体位センサの装着)

(順序2 本体(記録装置)の装着)

(順序3 UPATプローブの装着)

(順序4 測定の開始)

(順序5 測定の終了)

睡眠時無呼吸症候群の治療について教えてください。

 治療としては、1)生活習慣の改善、2)持続陽圧呼吸療法(CPAP療法)、3)歯科装具による治療、4)手術があります。

1)生活習慣の改善

 減量や、飲酒の制限、禁煙、睡眠薬の制限などにより、睡眠時の無呼吸が改善します。
  仰向けで寝るよりも、横向きで寝ると上気道の閉塞を軽減できる場合があります。
  抱き枕などを使って横向きで寝る工夫をしてみるのも良いでしょう。

 (症例)68歳 男性 
 無呼吸低呼吸指数6.8と軽症の睡眠時無呼吸症候群の患者さんです。しかし、睡眠時間の31%を占める仰臥位では無呼吸低呼吸指数は18.2と高く、中等症の睡眠時無呼吸症候群レベルであり、仰臥位以外の体位(睡眠時間の69%)では無呼吸低呼吸指数は1.7と正常範囲でした。

 
(ウォッチパット300からのデータ)
 この患者さんの簡易検査の一部を示したものです。左側臥位から仰臥位になった途端、いびきとともに、無呼吸/低呼吸が出現し、酸素飽和度の低下や脈拍の増加が見られています。また、今までは深い睡眠状態であったのですが、その後は覚醒反応(目覚めること)が頻繁に見られています。
 仰向けで寝ることが問題であると判明しましたので(体位依存性睡眠時無呼吸)、抱き枕を勧めた結果、夜間覚醒が減少し、熟睡感が得られ、寝起きもよくなり、昼間の眠気もなくなりました。その後、抱き枕をして再度検査したところ、仰臥位の睡眠時間に対する比率は31%から16%に減少し、それに伴い無呼吸低呼吸指数は6.8から4.0に下がり、検査の結果でも正常化しました。

2)持続陽圧呼吸療法(CPAPシーパップ療法)

 一定圧を加えた空気を、鼻から送り込むことによって、上気道の閉塞を取り除き、睡眠中の気道を確保する非常に有効な治療法です。中等から重症の睡眠時無呼吸症候群にはこの治療が第一選択になります。
 ①簡易検査で、無呼吸低呼吸指数が40以上であれば、健康保険が適応されます。 
 ②簡易検査で、無呼吸低呼吸指数が20以上、40未満の場合は、専門の施設に一泊入院して(3割負担で4-5万円かかりますが)、睡眠状態をトータルにみる検査の結果で、健康保険が適応されます。
 ③簡易検査で無呼吸低呼吸指数が20未満の軽症の場合は、この治療法の保険適応はなく、生活習慣の改善や、歯科装具による治療が選択されます。

3)歯科装具による治療

 マウスピース(スリープスプリント)を作製して、下あごを前方に引き出して空気の通りを良くするものです。マウスピースの作製は歯科で行い、健康保険が適応されますが(3割負担で、1万円から1万5000円程度)、医科から歯科への紹介状が必要です。



(山口県医師会 健康教育テキスト No. 41 睡眠時無呼吸症候群より引用)
 一般に軽症の睡眠時無呼吸症候群が適応になりますが、CPAPを続けることが難しい患者さんに対して使用することもあります。
 マウスピースは軽症例で高い治療効果がありますが、中等症や重症例でも有効な場合があります。

(山口県医師会 健康教育テキスト No. 41 睡眠時無呼吸症候群より引用)
 マウスピースに伴う副作用として、噛み合わせの変化、歯や歯茎の痛み、あご関節の痛み、歯の移動などがあります。

4)手術による治療

 気道閉塞の原因が扁桃腫大などの特殊な場合に限られます。