COPD(慢性閉塞性肺疾患) 肺気腫
COPDという病気が増加していると聞きますが、どのような病気でしょうか。治療法は?
COPD(chronic obstructive pulmonary disease:慢性閉塞性肺疾患)は、主に長年の喫煙などで気道や肺がゆっくり傷み、息切れ・咳・痰が続く病気です。
かつて「肺気腫」と表現されることもありましたが、正確には慢性気管支炎や肺気腫を含む総称です。
人口の高齢化や喫煙の影響で世界的に患者数が多く、21世紀の主要疾患の一つとされています。
日本では40歳以上の約12人に1人(約8.5%)が該当すると推計され、未診断の方が数百万人規模に上ることが大きな課題です。
主な原因はたばこの煙で、長年の暴露により肺胞の壁が壊れて弾力が失われ、空気が出しにくくなります。
骨の密度が下がる「骨粗鬆症」になぞらえ、**肺がスカスカになるイメージから「肺粗鬆症」**と比喩されることもあります(正式な病名ではありません)。
なお、受動喫煙や粉じん・調理煙などの環境因子も発症や増悪に関与します。
自覚症状
主に 労作時の息切れ・咳・痰 がみられます。
診断
肺機能検査(スパイロメトリー) を中心に、胸部X線 や 胸部CT を組み合わせて評価します。
●COPDの胸部CT像(70歳 男性 喫煙中)
コンピューター処理により、肺が壊れて、穴が開いた部位を黄色くしています。肺の横断面の大部分が黄色に着色し、正常な肺(黒い部分)は殆どありません

●正常の胸部CT像(70歳 男性 非喫煙者)
肺の破壊を示す黄色の部位はほとんどありません。

治療の考え方
残念ながら一度壊れた肺の構造そのものを元に戻すことはできませんが、禁煙 により進行を抑えられます。
さらに、吸入薬、肺リハビリ、ワクチン(インフルエンザ・肺炎球菌)などで 症状の軽減 と 増悪(急な悪化)の予防 が期待できます。
COPDの吸入治療について教えてください。
基本的な考え方
目的は症状の軽減(息切れ)と将来リスク(増悪)の低減。まずは長時間作用の気管支拡張薬を中心に組み立て、必要に応じて段階的に強化します。
当院で採用しているCOPDの吸入薬
●LAMA(Long-Acting Muscarinic Antagonist):長時間作用性抗コリン薬
気管支の「締め付け(副交感神経側の収縮)」をゆるめて、気道をひろげる薬。COPDの維持療法の基本薬です。口渇、排尿困難、緑内障悪化リスクに注意。
・エンクラッセ(ウメクリジニウム)
・スピリーバ(チオトロピウム)
●LABA(Long-Acting β2-Agonist):長時間作動性β₂刺激薬
気道の平滑筋をゆるめて気管支を広げます。動悸、振戦などに注意。
・セレベント(サルメテロール)
●二剤配合剤 LAMA+LABA
・アノーロ(ウメクリジニウム/ビランテロール)
・スピオルト(チオトロピウム/オロダテロール)
●三剤配合剤 LAMA+LABA+ICS(吸入ステロイド)
・テリルジー(フルチカゾンフランカルボン酸エステル/ウメクリジニウム/ビランテロール)
COPDの吸入治療:単剤・二剤・三剤の使い分け
1)単剤(LAMAまたはLABA)
・症状が軽い、悪リスクが低い → 長時間作用単剤で開始。効果があれば継続。
・単剤で息切れが残る/増悪する → **二剤(LAMA+LABA)**へ。
2)二剤(LAMA+LABA)
・症状が強い→ 最初からLAMA+LABAを第一選択(LAMA単剤より優越)。
・増悪リスクが高い→ 初期はLAMA+LABAが基本。
・さらに増悪するなら三剤(LAMA+LABA+ICS)へ。ICS(吸入ステロイド)の効果は好酸球が多いほど大きく、好酸球数 ≥100/µLで効果が出やすく、≥300/µLでより有利。
3)三剤(LAMA+LABA+ICS:いわゆる“トリプル”)
・LAMA+LABAでも増悪が続く → トリプルへ増強(好酸球が高いほど有益)。
・初期からの検討:増悪リスクが高く好酸球数≥300/µLなら最初からトリプルを検討。
・喘息を合併しているCOPDはICS(吸入ステロイド)必須。
まとめ
・まずは長く効く気管支拡張薬から始め、症状が強い/増悪しやすい方は二剤へ。それでも増悪が続く、または好酸球が高い場合は三剤を使います。
・喘息を合併している場合は吸入ステロイドが必要です。
・ICS(吸入ステロイド)で肺炎のリスクが上がりますので、注意が必要です。
喫煙者の全員がCOPDになるわけではありません。発症頻度は? 喫煙者でCOPDになりやすい人の特徴は?
喫煙者のどれくらいがCOPDになる?
・喫煙者の約15〜20%がCOPDを発症します。
・長期間吸い続けた人を25年追跡した研究では、**少なくとも約25%**がCOPDに至りました。
・「喫煙者の一部がなる病気」で、同じ喫煙でも個人差でリスクが変わります。
喫煙者でCOPDになりやすい人の特徴は?
・たばこの量・年数が多い/若くから開始/今も喫煙中
吸う本数・年数が多いほどリスク↑。禁煙年数が長いほどリスク↓。
・せき・たんが長く続く(慢性気管支炎タイプ)
喫煙者で慢性の咳や痰がある人は、その後の呼吸機能悪化や不調が増えます。
・やせ気味(低BMI)
低体重の人は、将来のCOPD発症が多いという報告があります。
・喘息の既往・併存
喫煙者で喘息があると、将来のCOPDリスクが上がります。
・職場の粉じん・化学物質や、家庭・職場の受動喫煙
これらのばく露はリスクを上乗せします(受動喫煙も重要)。
・女性
同程度の喫煙でも女性は影響を受けやすい可能性が示されています。
・体質・遺伝の影響
まれですが**α1アンチトリプシン欠損症(SERPINA1変異)**は強い遺伝要因です。
・子どもの頃の肺の発達が弱い/早期の呼吸器トラブル
低い最大肺機能で成人を迎えると、その後のCOPDが増えます。
COPDの合併症について教えてください。
COPDは「肺の病気」ですが、全身に影響します。放置すると生活の質が下がり、入院や命に関わることもあります。早めの対策が大切です。
COPD(慢性閉塞性肺疾患)の合併症
・急性増悪(きゅうせいぞうあく):風邪や感染をきっかけに、急に息切れ・咳・痰が悪化する状態。入院が必要になることがあります。
・呼吸不全:酸素が不足し、倦怠感・夜間の息苦しさ・むくみなどが出ます。
・肺高血圧〜右心不全:肺の血圧が上がり、足のむくみ・体重増加・息切れが強くなります。
・肺がん:COPDの方は一般の方より発症リスクが高くなります。
・気胸:肺に穴があき胸が痛く急に息が苦しくなる病気。
・感染症(肺炎・インフルエンザ等):重症化しやすくなります。
・骨粗しょう症:骨がもろくなり、背骨の圧迫骨折や身長低下の原因に。
・サルコペニア・体重減少:筋力・体力が落ち、転倒や息切れが悪化。
・心血管病(心筋梗塞・脳卒中など):炎症や喫煙の影響でリスクが上がります。
・睡眠時無呼吸症候群:昼間の眠気・高血圧の悪化につながります。
・逆流性食道炎(GERD):咳を悪化させることがあります。
・不安・抑うつ:息苦しさが長く続くことで気分の落ち込みが増えます。
COPDの増悪で入院を勧められました。肺炎ではないと言われましたが、どう違うのですか。
COPDの「増悪(ぞうあく)」とは?
定義:
ふだんより息切れ・せき・たんがはっきり悪化し、追加の治療が必要になる急性の出来事(通常2週間未満で進行)。原因は気道感染や大気汚染などが多いとされています。
肺炎は含む?
原則、別扱いです。 増悪に似た症状は他の病気でも起こるため、GOLDはまず**鑑別として「肺炎・心不全・肺塞栓」**を評価するよう勧めています。画像で新しい浸潤影があれば「肺炎(COPDに合併)」として治療し、COPDの増悪とは区別します。
受診の目安:
息苦しさの急な悪化、たんの量や色の変化、発熱、救急受診が必要な強い息切れ・低酸素のサイン(指先酸素が低い等)があるときは、早めの受診を。増悪は入院や再発のリスクを高めるため、放置しないことが大切です。
COPDと肺がんの関連について教えてください。
ひとことで
COPDは喫煙の影響にくわえて、慢性炎症や肺の構造変化(気腫・軽い線維化)が重なり、肺がんのリスクが高くなる病態です。
だからこそ**禁煙+早期発見(CT)**が重要です。
数字で見る
・合併率:COPDに肺がんを合併するのは 約9〜20%(例:剖検1,189例中 18.8%)。
・相対リスク:非COPDの喫煙者と比べて 3〜6倍。
・死因内訳:COPDの死亡原因として肺がんが約15%。
・年間発生:国内前向きコホートで**年あたり約2.3%**新規肺がん(気腫や間質性変化があるとさらに上昇)。
なぜリスクが上がる?
慢性炎症・気腫・気流制限など、COPDそのものが喫煙とは独立した発がん促進因子として働くため。
対策
・禁煙支援:まずはここから。禁煙治療。
・早期発見:早期肺がんは症状がありませんので、CTの定期チェックを検討。特に CTで気腫・軽い線維化がある方は要注意。
・定期フォロー:画像・呼吸機能の継続評価。
・治療上の注意:高齢・低肺機能・併存症で標準手術が選びにくい場合があるため、早期診断・根治治療を目指す。
COPDに合併した肺がん(CTで早期に見つかった症例)
(症例1)68歳 男性
①X年:右中葉に小嚢胞(〇)を認めるだけです。

➁X+2年:小嚢胞の壁が少し厚くなり、すりガラス陰影が出現してきました(〇)。

③X年+2年4か月:さらに壁が厚くなり、すりガラス陰影が広がってきました(〇)。

その後手術が行われ、16㎜大の早期肺がんでした。
肺がんは丸い結節とのイメージがありますが、COPDに発生する肺がんにはこのように嚢胞壁から発生するタイプもあります。
(症例2)72歳 女性
①X年:右上葉の、上下に並んだ気管支の輪切り像で(矢印)、異常はありません。

➁X年+3年:下の方の気管支の輪切り像が扁平となり、少し内腔が狭くなっています(矢印)。

③X+5年:下の方の気管支の内腔は消失し、結節状を呈するようになりました(矢印)。

気管支鏡が施行され、早期肺がんと診断されました。
肺の機能が悪いため、放射線治療が行われました。
COPDで呼吸困難が進行し、在宅酸素療法を勧められました。どんな治療ですか。
在宅酸素療法とは?
血中の酸素が不足(低酸素)している方が、自宅や外出先でも酸素を吸入して体の状態を保つ治療です。
鼻にやさしいチューブ(鼻カニューラ)をつけ、酸素濃縮装置や携帯ボンベから酸素を吸います。
酸素濃縮器とは?
部屋の空気(酸素約21%)から“酸素だけ”を取り出し、約90〜95%の酸素を連続的に作って鼻カニューラで届ける装置です。
在宅酸素療法の“心臓部”で、家庭のコンセントで動きます。酸素ボンベのように補充の配達を待つ必要がありません(停電時は携帯ボンベを併用)。

帝人ヘルスケア株式会社資料より
COPD以外でどのような病気の人が使用していますか?
・COPD(慢性閉塞性肺疾患):全体の約37%
・間質性肺炎・肺線維症:約30%
・肺がん:約6%
・そのほか:気管支拡張症・結核後遺症、肺高血圧症、慢性心不全など
自己負担額は?
・健康保険3割で月2万円前後が目安です。
・濃縮器の電気代(数千円/月)は別途かかります。
・身体障害者手帳や自治体の助成で自己負担が軽減もしくは、なくなることがあります。
期待できること
・息切れの軽減、心臓や体への負担軽減、運動のしやすさ向上。
・COPDで安静時に強い低酸素がある方では、長時間(できれば1日15時間以上)の酸素で生存率が改善することが証明されています。
安全に続けるために
・火気厳禁:装置の周囲2m以内に火気を置かない、吸入中は絶対に喫煙しない(重大な火傷・火災の危険)。
・目標SpO₂:CO₂が溜まりやすい方では**88〜92%**を目安に“やり過ぎない酸素”を心がけます(医師が指示します)。
・停電・災害対策:携帯ボンベや連絡先を常備。旅行・外出時の手配は事前に。
重度のCOPDがあり、身体障害者手帳(呼吸器機能障害)の取得を勧められました。教えてください。
手続きの流れ
・検査:スパイロ(FEV₁)、動脈血ガス(PaO₂)を安定期・室内気で実施。必要に応じ活動度評価。
・診断書:**身体障害者診断書・意見書(呼吸器機能障害用)**を指定医(当院院長)が作成。
・申請:お住まいの**市区町村(障がい福祉担当)**へ。
身体障害者手帳が取れる目安
・判定は「予測肺活量1秒率(=指数)」か「動脈血ガス(PaO₂)」の“低い方”と臨床所見で総合判断されます。
手帳で自己負担が軽減/ゼロになる可能性
・多くの自治体に重度心身障害者医療費助成があり、身体障害者手帳(1〜3級等)所持者は、保険診療の自己負担が全額助成または上限付き軽減となる場合があります(地域・所得要件で差があります)。
在宅酸素療法と手帳との関係
・在宅酸素をしているだけでは手帳は取得できません。